不動産投資では、購入した物件を賃貸運用した後、出口となる売却をすることで、利益や損失が確定します。出口戦略に失敗すると、家賃収入によって積み上げてきた収益を損なうこともあるなど、不動産投資において出口戦略は重要な意味を持ちます。
不動産投資の初心者に向けて、投資物件の購入前に知っておきたい出口戦略に関する知識を紹介していきます。
不動産投資における出口戦略とは、投資物件の売却により、投資した資金を最大限に回収するための戦略をいいます。不動産投資では、投資物件の購入が入口で、投資物件の売却が出口です。
不動産投資において出口戦略が重要視されているのは、最適な時期に売却することで収益を最大化できるためです。売却するタイミングによっては、想定していたよりも安価でしか売れず、これまで得ていた家賃収入による収益を上回る損失となる可能性すらあります。
不動産投資における出口戦略には、主に3つのパターンがあります。
【不動産投資の出口戦略のパターン】
収益物件として売却するのは、家賃収入を得ることを目的とした収益物件のまま売却する方法です。入居者がいる場合には、オーナーチェンジ物件として売り出す形となります。
収益物件としての売却が向いているのは、収益性が高く、安定した収益が継続的に得られることが見込まれるケースです。空室率が低いことに加えて、ターミナル駅にアクセスしやすく、最寄り駅から徒歩15分以内など交通利便性が高く、周辺環境が整備されている物件は、将来にわたって安定した家賃収入が入ることが期待できます。
収益物件として売却する際には、できるだけ高い家賃で入居者を確保するとともに、空室率を抑えることが高値での売却につながります。また、物件の価値を維持するには、定期的に建物や設備のメンテナンスを行っておくことも大切です。
自己居住用としての売却は、購入者が自分で住むための物件として売却するケースが該当します。
自己居住用としての売却は、入居者がもともと購入を希望しているケースや、買取を打診した場合に応じたケースに向いています。入居者の希望する立地条件や間取り、広さに合った物件の場合は、収益物件としての売却よりも高値で売れる可能性があります。
一方、入居者以外への自己居住用としての売却は、空室になったタイミングに限られる点に注意が必要です。自己居住用として売却する場合には、不動産情報のポータルサイトをチェックし、立地条件や広さなどから相場感をつかんでおくことがポイントになります。
更地にして売却するのは、建物を解体して土地として売却する方法です。
更地にして売却するのが向いているのは、建物の築年数が経過していて古く、更地にして売却した方が高く売れるケースです。あるいは違法建築物のほか、建物が傾いていたり、白アリの被害を受けていたりするなど、老朽化がかなり進んでいて、買い手がつきにくいケースが挙げられます。
ただし、更地にして売却するケースは入居者がいないことが前提です。入居者がいる場合には、退去を求めるための立ち退き交渉が必要です。あるいは新たな入居者とは定期借家契約を結んでおく方法もあります。更地にして売却するのは手間や費用がかかるなど、ハードルが高いという点に留意しましょう。
不動産投資のおすすめの出口戦略は物件の種類によって異なります。
物件の種類 | おすすめの出口戦略パターン |
---|---|
一棟マンション/一棟アパート | ●収益物件として売却する ●更地にして売却する |
区分マンション/ワンルームマンション | ●収益物件として売却する ●自己居住用として売却する |
戸建て住宅 | ●収益物件として売却する ●自己居住用として売却する ●更地にして売却する |
収益物件として売却するのはいずれの物件種別でも可能です。自己居住用として売却できるのは、区分マンションや戸建て住宅です。また、一棟マンション・一棟アパートのほか、戸建て住宅も更地にして売却するという選択肢があります。
投資物件が一棟マンションや一棟アパートの場合は、一般的に土地と建物を所有していることから、次の2つの出口戦略があります。
【出口戦略のパターン】
一棟マンションや一棟アパートの出口戦略で、収益物件として売却する場合と更地にして売却する場合のメリット・デメリットをまとめました。
出口戦略 | メリット | デメリット |
---|---|---|
収益物件として売却する | ●不動産相場が上がっているケースやフルリフォーム・フルリノベーションしているケースでは、高値で売れる可能性がある。 ●大きな手間がかからない。 | ●違法建築物などでは買い手がつきにくい。 |
更地にして売却する | ●老朽化した物件では、建物がない方が高値で売れる可能性がある。 ●買い手がつかない物件を売却できる可能性がある。 | ●定期借家契約を除き、入居者全員に退去の承諾を得る必要があり、立ち退き料の支払いが必要。 ●特に一棟マンションは多額の解体費用が発生する可能性がある。 |
一棟マンションや一棟アパートで収益性が高い場合には、収益物件としての売却が向いています。売却前に入居者の募集に力を入れたり、客付けの強い管理会社に変更したりするなど、空室率を下げることが早期の高値での売却につながります。
一方、建物の老朽化などで更地の方が高く売れるケースや、違法建築物や傾いた建物など、建物がある状態では買い手がつきにくいケースは、更地にして売却するのが向いています。売却時期を決めたら、新たな入居者は定期借家契約で募集すると、立ち退き交渉が必要な入居者を減らせます。
ワンルームマンションを含め区分マンションの場合は、マンションの一室を所有しているため、解体するという選択肢はなく、出口戦略として次の2つのパターンが挙げられます。
【出口戦略のパターン】
区分マンションやワンルームマンションの出口戦略で、収益物件として売却する場合と自己居住用として売却する場合のメリット・デメリットをまとました。
出口戦略 | メリット | デメリット |
---|---|---|
収益物件として売却する | ●収益性の高い物件は買い手が見つかりやすい。 ●特にワンルームマンションは収益物件としての需要が高い。 | ●新築マンションは短期間で資産価値が低下しやすい。 |
自己居住用として売却する | ●入居者に売却できる可能性がある。 ●ファミリー向け物件は収益物件として売るよりも、高値で売却できる可能性がある。 | ●居住者以外には、空室のタイミングでしか売却できない。 ●ワンルームマンションは需要が少ない。 |
区分マンションやワンルームマンションで、収益性が高い場合は収益物件としての売却が向いています。特にワンルームマンションは収益物件としてのニーズが高いです。
自己居住用としての売却は、入居中は入居者への買取の打診が基本です。空室になっているタイミングでは、ファミリー向け物件の場合は自己居住用として売却した方が高く売れる可能性があります。
いずれにしても、区分マンションやワンルームマンションの売却は、エリアによって有効な販売戦略が異なるため、立地するエリアに強く、区分マンションの売却を得意とする不動産会社に仲介を依頼することが大切です。
戸建て住宅の場合で、土地と建物を所有している場合には、出口戦略は3つの選択肢があります。
【出口戦略のパターン】
戸建て住宅の出口戦略として、収益物件として売却する場合と自己居住用として売却する場合、更地にして売却する場合のメリット・デメリットをまとめました。
出口戦略 | メリット | デメリット |
---|---|---|
収益物件として売却する | ●賃貸需要に対して供給が少ないため、売却しやすい。 ●リフォーム・リノベーション前提の投資が多く、老朽化していても買い手が見つかりやすい。 | ●戸建て住宅は建物の価値が築20年程度でゼロになりやすい。 |
自己居住用として売却する | ●入居者の側から買取を打診されることがあるなど、入居者に売却しやすい。 ●古くなっても安ければ売れやすい。 | ●戸建て住宅は建物の価値が築20年程度でゼロになりやすい。 |
更地にして売却する | ●住宅用地のほか、駐車場やトランクルームとしての需要も見込める。 | ●入居中の場合は入居者の承諾や立ち退き料の支払いが必要。 ●比較的安価とはいえ、解体費用がかかる。 |
戸建て住宅は賃貸需要が高いため、立地条件がよく、今後も収益が見込める場合は収益物件としての売却が向いています。入居者の側から買取を打診されるケースのほか、空室のタイミングでは、自己居住用として売却するという選択肢があり、収益物件としての売却よりも高く売れることもあります。
一方で、増築などによって違法建築物になっている場合など、そのままの状態では買い手がつきにくい場合に向いているのは、更地にして売却する方法です。更地にすると住宅用以外にも、駐車場用地などとしての需要も見込めます。
不動産投資の出口戦略を成功させるポイントとして、次の5つが挙げられます。
【出口戦略を成功させるポイント】
不動産の売却タイミングとして適切な時期とされているのは、主に次の5つのタイミングです。
【不動産の売却タイミング】
土地や建物を売却したときの売却益にかかる税金は、所有期間によって税率が異なるため、短期譲渡所得から長期譲渡所得へ切り替わる時は、売却を検討するタイミングの一つです。
売却した年の1月1日の時点で、所有期間5年以下は短期譲渡所得、所有期間5年超は長期譲渡所得と区分されています。税率は、短期譲渡所得は所得税30%、住民税9%、長期譲渡所得は所得税15%、住民税5%で、いずれもこの他に復興特別所得税が所得税額の2.1%かかります。長期譲渡所得に切り替わった年以降に売却することで、税負担を大幅に軽減できます。
こうした税率の違いから、キャピタルゲインを狙った不動産投資では、1月1日時点での所有期間が5年を超えてから売却した方が、税務上有利です。所有期間の数え方は取得日から売却日までのカウントではなく、売却した年の1月1日が基準になる点に注意が必要です。
減価償却期間が終了すると、所得税や住民税の負担が増えるため、売却を検討するタイミングといえます。
不動産投資では、実際のキャッシュフローと税務上、必要経費として計上できる金額は異なります。投資物件の購入費用のうち、固定資産である建物や付属設備の部分は、耐用年数に応じた減価償却期間で分割して、必要経費として計上します。減価償却期間が終わると、必要経費として計上できる金額が減るため、税務上収益として残る金額が増えることから、所得税や住民税の税負担がアップするのです。
また、実際には投資物件の購入時に現金や不動産投資ローンなどで支払いを行っているため、減価償却費は現金支出を伴わない必要経費です。手元には収益が残っていても、税務上は赤字となっているケースもあります。税務上は赤字になる場合は、事業所得や給与所得などとの損益通算により、所得税や住民税の負担を減らす節税効果があります。特に節税目的で不動産投資を行っている場合は、減価償却期間の終了時の売却が向いています。
減価償却費として計上できるのは建物と付属設備の購入費用のみであり、土地は経年によって価値が変わらないため、減価償却の対象外という点に注意が必要です。
デッドクロスとは、不動産投資ローンの元金返済額が減価償却費を上回る時をいい、売却を見極めるタイミングの一つです。
ローン返済額のうち、金利部分は税務上必要経費として計上できますが、元金部分は計上できません。ローンが元利均等返済の場合は、借入当初は返済額に占める金利の割合が多く、返済を進めていくうちに徐々に元金の割合が増えてきます。そして、ローンの元金返済額が減価償却費を上回ると、家賃による現金収入は変わらないにも関わらず、大幅な黒字となっていき、所得税や住民税の負担が増えていくことがあります。
築年数が経過した中古物件はデッドクロスを迎えるタイミングが早いため、売却という投資判断が必要になる時期が早くきます。
デットクロスとなるタイミングは、ローン返済表と減価償却額をもとに確認できます。
入居者がいなくなった時に売却すると、収益物件のほか、自己居住用として売却することも可能となります。買い手の幅が広がることによって売却しやすくなるため、売却を検討するべきタイミングといえます。
こうした理由から、入居者がいなくなった時が売却のタイミングとなり得るのは、区分マンションや戸建て住宅です。特に、自己居住用の実需物件の取引実績が多いエリアでは、立地条件や間取りによっては収益物件として売却するよりも高く売れる可能性があります。
一方、一棟マンションや一棟アパートでは、満室に近い状態の方が安定した収益が見込めるため、入居者がいなくなった時は売却を検討するべきタイミングではありません。
大規模修繕工事は物件種別にもよりますが、多額の費用を支出することがあり、家賃収入でカバーするのが難しいこともあるため、売却を検討するタイミングとなります。
区分マンションでは、所有者で構成される管理組合で外壁や共用廊下、共用階段、屋上防水などの大規模修繕工事を12年~15年の周期で実施します。大規模修繕工事にかかる修繕費用は、修繕積立金として毎月徴収されています。しかし、修繕積立金が不足する場合には値上げとなることや一時金が徴収されることがあります。
また、一棟マンションや一棟アパートでも同様に定期的に大規模修繕工事が必要なため、計画的に資金を貯めておく必要があります。大規模修繕工事を実施しなければ、建物の老朽化が進んで資産価値が低下する恐れがあるためです。
ただし、一般的に収益物件は築年数の経過とともに家賃が低下しますに家賃の低下や空室率の上昇によって、大規模修繕工事費用を家賃収入でカバーできない可能性があることを留意しておく必要があります。
売り出し価格は成約価格とは異なり、実際には売り出し価格をもとに購入希望者との交渉の結果、売却価格が決まります。しかし、売り出し価格が高すぎると売却までに時間がかかり、売り出し価格が安すぎると収益を最大化できないため、出口戦略においても売り出し価格は重要です。
売り出し価格を決定するにあたっては、複数の不動産会社に査定を依頼して、査定価格を参考に賃貸需要などを踏まえて決定します。ただし、収益物件の売り出し価格の考え方には以下の2つがあり、どちらをとるかによって売り出し価格が変わってきます。
【売り出し価格の考え方】
収益物件とし安定した収益が今後も得られることが見込まれるケースでは、収益性から売り出し価格を決定するのが基本です。収益性から考える場合は、賃貸運用による収益から売り出し価格を算出します。
収益性から算出するには、「物件価格=年間家賃収入÷期待利回り」という計算式を用います。年間家賃収入は空室率が3割未満であれば満室想定で算出しますが、3割を超える場合には1割程度引くなど、割り引いて計算します。期待利回りは、販売中の類似物件の利回りが参考になります。ただし、広告や収益物件のポータルサイトに掲載されている利回りは売り手の売却希望価格にもとづいているため、1%程度下げた方が実勢に近くなるという点に注意が必要です。
資産性から考えるのが向いているのは、一棟マンション・一棟アパート、あるいは戸建て住宅で、空室率が高い、あるいは敷地面積に対して建物が小さいといった理由から、賃料収入が低いケースです。中古物件の建物は価値がほとんどないとされることが多いため、資産性から考える場合は更地にした場合の土地の価格をもとにします。住宅情報ポータルサイトで類似する土地の価格をチェックすると参考になります。
また、収益性と資産性のどちらから考えたらよいか判断に迷う場合には、双方の考えかによる売却価格を算出して、高い方の価格を売り出し価格とします。
出口戦略において、収益性にもとづいて売却価格が決まるのが基本ですので、家賃の下落が緩やかで価値が低下しにくい物件を選ぶことが重要です。
【価値が下落しない物件選びのポイント】
立地は変えることができない要素のため、都市部やターミナル駅にアクセスしやすいエリアなど、立地条件は価値が下落しない物件選びにおいて重要です。一定の賃貸需要があり、供給過剰になっていないエリアや、今後の人口の増加が見込まれるエリアに立地している物件は、安定したニーズが見込めます。また、単身者用のワンルームマンションの需要が高いエリアもあれば、子育て世帯に向けたファミリータイプのマンションの需要が高いエリアもあるため、エリアの需要に合った間取りの物件かという点も大切なポイントです。
購入時に自己資金に余裕を持って用意して頭金を入れていると、出口戦略において売却するタイミングの自由度が高くなります。
不動産投資ローンを利用して投資物件を購入している場合で、売却価格がローンの残債を下回るケースでは、差額を一括返済しなければ売却することができません。しかし、特にフルローンで購入している場合や、新築マンションを購入して間もないタイミングでは残債が残ることがあります。
投資物件の購入時にはローンの頭金のほか、諸費用の支払いが発生します。投資物件の購入にあたっては、物件価格の15%~30%程度の自己資金を用意しておくと余裕を持てます。
出口戦略を見据えて、物件の維持管理を適切に行い、資産価値の維持に努めることも大切です。日常清掃や定期清掃、設備の定期点検を実施していないなど、物件の管理状態が悪いと、空室リスクや家賃下落リスクを招く恐れがあり、収益性の悪化によって売却価格が下がることが考えられます。
投資物件の状態を良好に保つには、適切な維持管理を行う管理会社に、賃貸管理や建物管理を委託することが重要です。また、築年数が経過した物件はリノベーションをするという選択肢もありますが、必ずしも工事費用を家賃に反映できるとは限らない点に注意が必要です。
毎年多くのお客様がトーシンパートナーズでマンション経営をスタートしています
将来に漠然とした不安を抱えてはいるものの、なにをしたらよいかわからない……。
トーシンパートナーズではそんなお悩みを抱えるみなさまに、マンション経営をご案内しています。
マンション経営と聞くと空室の発生や、家賃の下落・滞納・資産価値の下落などの不安要素が思い浮かぶかもしれません。ですがパートナーとなる会社次第で、ご不安は限りなくゼロに近づけることができます。
家族のために、自分のために、未来の安心のために、ローリスク&ロングリターンな資産運用を始めてみませんか?
投資物件を購入して賃貸運用を始めてから、出口戦略について考えるのではなく、投資物件を購入する入口の段階から考えておくことが重要です。出口戦略を踏まえた物件選びをすることで、収益の最大化を目指しやすくなります。とはいえ、売却に適したタイミングはケースバイケースですので、紹介した5つのタイミングを参考に適切な時期を見極めていきましょう。